小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの咲く頃に その19

万雷の拍手に、前村はぺこりと頭を下げ、上着を脱いだ。 三宅が労をねぎらいながら受け取り、説明を始めた。 「普通、紳士モノスーツでは男性のモデルが常識です。が、女性が着こなしてはいけないなんて規則はどこにもありません。プロモーション計画の第一歩。先ず話題性、衝撃的なニュース性が大事と先ほど説明しましたが、今回のシーンが実現するなら それだけでもう、計画の大成功は保証されたも同然といえます。また山下ゆり恵は前村君と同じぐらい背丈もあり、妙な違和感もなく堂々とジャンニスーツをアピール、着こなしてくれる筈です」

上気した顔のまま前村が席に戻ってきた。 やったな。うん。僕らは目と目で会話した。

前村の熱演と、三宅がポイントを突いた補足説明が効を湊したのか、役員席あたりの空気が一変した。 国光常務は隣の伊村健介社長と何やら熱心に話し込んでいる。やがて三宅の方に向き直ると

「おもろい。だが、日程的にどうなんや。サヨナラ公演となると、まだまだ先の話ではないのか?ジャンニのプロモは調印次第によるが、7・8月にはスタートしたい」 (お、日程に食いついて来たか。山下ほどの大物アイドルになると、国光らでも関心がある証拠といえる)

 

「はい、昨夜仕入れた情報では、ご結婚つまり引退は今年の10月の二十日過ぎ。当然公演はそれ以前になりますが、今からの準備期間を計算し、10月5日の日曜が有力だろうとのコトです。コンサートそのものは秋なのですが、公演に向け8月、いやもしかすると来月7月中旬から告知宣伝が始まる筈です。 ジャンニブランドのプロモーション計画と偶然にもぴったり重なります。尚、先ほど彼女が演じてくれお見せしたのは告知宣伝のテレビCMプランです」

(え、あれからそこまで調べてくれたのか) 三宅の凄さを垣間見た気がした。 国光は?と見ると再び社長と話し込んでいる。 どうやら社長への説得役は国光が引き受けているようにも見える。 「インパクトの点で面白い。日程的にも申し分はない。だが、果たして実現可能なんか、相手は国民的スターや。肝心の山下ゆり恵サイドの意向もあるんじゃないか」

すると三宅は、よくぞ訊いてくれましたと云わんばかりに役員席の方を見据えるや

「まだ極秘扱いですが、サヨナラ公演に向け"博通舎”が既に動いてます。ご承知のように博通は大きいイベントをことごとく手がけられ実績もある広告代理店です。今回のイベントもおそらく博通に決まると思われます。何より、彼女が所属のホリウチプロ堀内社長と博通の吉田社長は昵懇の仲です。公演のスポンサーの件につきまして昨夜、大阪支社の宮下君に打診したところ、今のところ名乗りを上げてる所は勿論ゼロ。それより何より、引退発表を行なったその日、いきなりサヨナラ公演への広告協力、開催そのモノのスポンサーの件を打診したコトについて大変驚かれ、あきれられてました」

「そらあ驚くわな、しかしよくぞ思いついた」 「いえ、残念ながらこのアイデアを考えくれたのは、森野君、それに前村さんです」 三宅は頭を掻きながら、僕らの方を指し示した。

皆、一斉に僕たちを振り返る。 「あ、いや、どうも。どういたしまして」 どのような反応をして良いモノやらわからず、僕も頭を掻いた。 前村は堂々と胸を張り、皆に会釈を返した。

「ほーう、また君らか。ジャーニービワンコTシャツに続いてお手柄や。じゃが・・・」 国光が続けた。 「じゃが、予算的にどうなんや。べらぼうな費用が要るんじゃないか」 とうとう核心の部分が来た。と思った。 自分らも一番気になっていたのだ。 「はい、テレビ等CM料は基本的にホリウチプロの負担で我々はあくまでも協賛というカタチです。また公演そのものの開催費については、会場はどこにするかで、全体の規模が変わってしまうのですが、仮に日本武道館クラスとして約二億。もちろん主催者には入場料収入、もしテレビ局による放映が行われるならば、放映許諾料収入も見込めます。それら一切合切計算、差し引き我々の実質負担はトータル2000万ほどではないかとのコトです。単なるテレビCMだけでなく、おおよそ3ヶ月間に渡り続く各メディアへの露出。会場周辺の告知看板まで含め、ありとあらゆる宣伝効果が期待されるでしょうから、破格値と云える金額です」 「え」「なんと」「ほーう」 軽いどよめきが起きた。 (昨夜、自信満々になんとかなりそうと云ってくれたのはこの事だったか。しかし役員達が2000万を高いとみるか、安いとみてくれるか。。。)

「2000万か。契約料の増額分をプロモーション経費に回す、そう決まった額やないか」国光は社長そして、他の重役たちを説得するかの声を張り上げた。社長だけでなく周囲の重役たちと協議を始めた。

しばらく三宅はもちろん、会議に出席の全員、固唾をのんで見守っていたが、

「了解や。三宅君。この案件について社長を含め役員として了解した」

歓声のようなどよめきが起こった。 前村と僕は机の陰に隠れ小さくガッツポーズし、コブシとコブシをつき合わせた。

「しかし、まあまて」

どよめきを制すように国光が続けた。 「喜ぶのはまだ早い。問題は肝心のジャンニ側がどういう反応を見せるかや。女性アイドル歌手に自慢の紳士モノスーツを着させるコトをどう判断してくれるかや。あさってジャンニ側への説明に、君らも同行、同席してくれるか。三宅君それに川村君も異論はないだろ?」

「ええ、もちろん」三宅と川村が返事した。

その後、本来、三宅が考えていたプロモーション計画の説明が続いた。 ワープロA4紙100枚に渡る膨大で綿密な計画だった。

当時、日本で最大の発行部数を誇っていた「月刊メンズファッション」の裏表紙カラー広告、全国主要駅ホームでの電飾看板。著名人、マスコミ関係者三百人への衣装提供による露出度アップ計画。当時トレンドになりかけていた午後九時からのドラマ。ドラマの主演男優に対し衣装提供と効果予測などなど、それなりに緻密に計算されつくした計画書だった。山下の件が無くとも、それなりに凄いと思われるプロモーション計画だった。

「よくぞ頑張った。本日の案件承認で良いですね」 国光は社長を振り返った。

よろしく進めてください」 伊村社長の一言で会議は無事終了した。

国光は部屋を出るとき、わざわざ「あさって同行の件、くれぐれもよろしく」と手を振った。

それはてっきり三宅祐司独りに対して放った言葉と考えていた。 しかし会議終了後、僕と前村は川村課長に呼ばれたのだ。

「と、云うことや。さっそくで悪いが、出張予定表提出してくれるか」

「え。出張といいますと?」 「あさって東京やがな。ジャンニ側との契約交渉、プロモ計画の同席。常務が頼んでいただろ」 「えー」 「えッ」 僕と前村は顔を見合わせた。

つづく ※ 言うまでもありませんが、 当記事は フィクションです 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名、とも 一切の関係

はございません

(-_-;)